経営理念秘話

こんにちは。社長の大杉敏郎です。ホームページをご覧いただきありがとうございます。
「経営理念」は、なにかに迷ったときに答えを見つけるための指針。経営理念に立ち戻ると、いまやっていることが合っているのか、間違っているのかがわかる。そして、想い起こせば元気がでる。この経営理念にたどり着くまでに、たくさんの時間と、大杉工務店という会社がなくなってもおかしくない大事件があった。

大杉工務店の経営理念と社是

経営理念

皆が輝く場所づくり
  • 私たちは、お客様とそこに集う全ての方々が輝く場所を創ります
  • 私たちは、創る楽しさ、喜びを皆で分かち合い、活き活きと輝く場所を創ります
  • 私たちは、私たちが創る場所を通して、街・社会が輝くことを実現します
  • 私たちは、私たち自身が輝き、個々の幸福追求が出来る場所を創ります

社是

  • 因、我にあり
  • 明元素
  • 利他の精神
  • Y理論

「大杉ちゃん、えらいことになっとーねん、“ラーメン屋のT”が火事やねん」

今は深夜でも早朝でもお客様の電話に出られるよう、携帯電話は枕元に置いている。だけどそのころは、まだ携帯電話を寝室に置いていなかった。2012年6月17日、いつも通りの朝を迎え、リビングに置いていた携帯電話を見た。数十件の着信が。そのころ海外に出張へ行っているはずのお得意さんの社長さんかの着信もあった。「なにかあったに違いない」と思い、急ぎ折り返し社長さんへ電話をすると、「大杉ちゃん、えらいことになっとーねん、“T”が火事やねん」。

“T”とは、神戸市灘区にあるラーメン屋さん。もとは携帯電話のショップをしている社長さんがはじめたラーメン屋1号店。設計、施工を任され2011年8月にオープンした人気のラーメン屋。「火事やねん」の言葉を聞き終わったとき、一瞬背筋がゾクッとした。とにかく、大急ぎで現場へ駆けつけた。

ラーメン屋“T”の店の前は騒然としていた。消防車、消防隊員の方々、水浸しのお店、それを呆然と眺めるラーメン屋の店長さん、そしてスタッフの方々。みなさん普段からお話をしてお顔を知っている人たち。火事現場を眺めているスタッフの方々は、これまで見たこともない、失望、悲しみの表情をしていた。出火は深夜だったため営業時間外。けが人はいなかったことがせめてもの救い。火事は店舗の一部分だけだったものの、火を消し止めるためにかけられた水や消火剤で店舗は荒れ果てていた。しばらくして、出火の原因を突き止めるための消防隊員の方々による現場検証がはじまった。放火をはじめ、原因はいろいろ考えられる。そのとき考えていたことは「ちがうよな、ちがうよな、うちが原因じゃないはず。絶対に違う。違うと言ってくれ」。

人生も会社も足元から崩れていくかのよう

消防隊員の方々と出火場所を丁寧に見てまわった。電気の配線や室外機など、1つひとつ確認していたとき、あるべきではない1本の配線が目に入った。オープンした直後の施工時にはなかった配線。それを見つけたとき、背筋が凍る、血の気が引く、奈落の底に落ちる、いろんな表現があるけれど、あの瞬間の気持ちは言葉で言い表すことはできない。人生が、会社が、なにもかもが崩れていくような感覚。息ができない。「施工のときこの配線は無かったはず。でも、この店舗で工事をするのはうちの会社だけ。なんでこんなとこに?どうしよう・・・・どうしよう・・・・どうしよう・・・・」とにかく、呼吸も心も苦しかった。火事の原因が大杉工務店にある、とハッキリわかった瞬間だった。

底なし沼に引きずり込まれ、飲み込まれていく

ラーメン屋“T”は2011年8月に施工が完了しオープン。その約1年後2012年9月2日にラーメン屋“T”のスタッフの方から携帯電話に連絡がはいった。「2台あるうちの1台のエアコンが動かない」。9月2日、まだまだ暑い日が続き店内の室温は上がり、お客様にも迷惑がかかっている。電話連絡を受けたとき、別の現場に一緒に出ていた電気屋さんは、ラーメン屋“T”の施工も共にした人。「急いで見に行ってくれ」と送り出し、自分は施工中の現場に残った。電気屋さんはさまざまな原因を調べてくれた。あれこれ調査しわかった原因はリモコンの結線部分のネジが緩んで外れていたこと。「いろいろ調査したけど、リモコンのネジでした」と電気屋さんから報告を受けホッとしたのをよく覚えている。電気屋さんのあとを追いかけ自分も“T”へ行ったものの、なにをどう調査したのか現場を見て回ることなく、結果だけを聞いて安堵した。大杉工務店のお客様のことにもかかわらず、忙しさを言い訳にして人任せにしてしまい、自分の目で確認をしなかったのだ。9か月後、あんなとんでもないことになるとは。自分の甘い考えと行動から引き起こしてしまった大事件が勃発する。

「すべて復旧にかかる費用を負担します」

電気屋さんが調査のために、隣の室外機からつないだ仮設の線。そのまま取り外すのを忘れていたことが、出火の原因だった。1本の線でエアコン1台を動かすのに精いっぱいの状態のところ、1本の線で2台を動かす状態になったまま放置してしまっていた。調査のために配線をしたのは電気屋さんでも、それを依頼した大杉工務店の、社長である自分の責任。重くのしかかる。

ラーメン屋“T”のオーナーである株式会社Nの社長さんは、やはりすごかった。火事の一報を受けたあとすぐ海外から帰国。現場に駆け付け、原因がハッキリする前から、スタッフの方々に今からやるべきことをテキパキと指示を出す。今後、いつ再開を目指そう。そのためには施工も必要。原因がわからないなかでも、社長さんは大杉工務店に再開のための復旧、施工を任せてくださった。そのあと判明した「責任は施工にある」という結論。

担当した電気屋さんと話をし、時系列で事実を書面にまとめ、社長さんのところへ報告書を持ってお詫びに行った。あのときの気持ち。信頼してくださっていた、その信頼を裏切ってしまった。なんとお詫びをすればいいのか。どんな顔をして社長にお会いすればいいのか。とにかく必死の思いでこう伝えた「復旧にかかる費用は、すべて大杉工務店で負担します」。

会社が潰れてでもラーメン屋“T”を復旧させなければと思っていた

火事の復旧がはじまると、仕事はすべてラーメン屋“T”が最優先になった。店長さんから電話があると「すぐに行きます!」どんなアポイントもキャンセルして対応した。それが自分のやるべきことだと信じていた。なによりもつらかったのは火事の前は笑顔で楽しそうに仕事をしていた店長さんや他のスタッフの方が、ツライ、悲しい顔をして毎日を過ごしていること。保険会社への提出書類も、消防へ提出する資料も、すべての仕事が火事が原因で、面倒なことをスタッフの方々にやらせてしまっている。とにかく、スタッフの方々の復旧作業の負担を軽くしたい。必死で走り回った。他のすべての仕事は二の次だった。心のなかで「たとえ会社が潰れても、ほかの仕事を後回しにしても、とにかくラーメン屋“T”の復旧に集中しなければ」と思っていた。今だからわかる。それはとんでもない間違いだ。

自分に甘い行動

「復旧費用を負担しても、ある程度は保険でカバーできるはず」という考えは、そう簡単には進まなかった。保険会社と補償額でのやりとりに四苦八苦。さらに、保険のお金が入るまでにかなりの時間がかかることがわかり、復旧にかかる費用、職人さんへ支払うお金はどうするのか。保険がなければ、とうてい払いきれない。職人さんへ払えなければ、復旧の施工はできない。自分が言い出したことにもかかわらず、自分は甘い行動に出る。迷惑をかけた社長さんに頼みに行った。「復旧にかかる費用を立て替えてくれませんか」。社長さんの会社にも保険会社からの補償があるはず。だから立て替えてもらえるだろう、そう思っていた。自社の保険ではなく、お客様が受け取る予定の保険までもアテにしていたのだ。今思えば、なんと考えが甘く、ご迷惑をおかけしたお客様に失礼なことを言ってしまったのか・・・。
社長は口数少なく黙って大杉の話を聞いている。長く感じる沈黙。いたたまれない重い空気。表情を変えず目を閉じて考えていらっしゃる社長の表情。何度か言葉のやりとりをしたあと社長の一言は「大杉ちゃん、それは筋が違うんちゃうか。それは出来へんわ。おまえのために、それは出来へん。」厳しい表情のなかにも、後から思えば「自分の力で乗り越えろ」という優しがが見えた気がした。そのとき、本当の「問題点」がわかった気がした。それは、自分の考えの甘さ。事件を引き起こした原因も、お客様に立て替えをお願いするという発言も、社長である自分が、自分自身に甘いからこそ大杉工務店にトラブルを引き起こしてしまった。自分が変わらなくては。考えをただし、行動で示さなければ。そこからが、本当に大変な日々。積極的に関係を築くことをさけていた銀行へ融資のお願いすることに。銀行へ提出するのに必要な書類の山。作成に手間取り、たくさんの人に助けてもらった。うちのような小さな会社に融資などしてくれるはずがないと決めつけていた。だけど、やるべきことをやり、銀行と話をしたら、融資を受けることができた。なんとか資金難は乗り越えられた。これが、自分が「本当の経営者」としての仕事をしたはじめの一歩だったのかもしれない。

そして「経営理念」へ

経営理念の「皆が輝く場所づくり」は、オヤジが会社を立ち上げたときから、オヤジの理念でもあった。はっきりと文字にしたことは無かったけれど、みんなを笑顔にしたい。そのオヤジの気持ちに、自分は気づいていた。

それが「会社はつぶれても仕方ない」とは・・・。会社がつぶれたら、協力会社さんはどうなる?一緒に働いてくれているスタッフは?路頭に迷ってしまう家族は?会社がつぶれるということは、みんなの笑顔が消えるということ。会社をなんとか存続させるように力を注ぎながらラーメン屋“T”に集中すべきだった。それが自分の仕事だったはずだ。そのとき、自分はいままで「会社を運営」していただけだった、ということに気づく。経営していたんじゃない、ただ運営していただけ。社長としての本当の意味での自覚がなかったんじゃないか。だったら、これからどう変わっていくべきなのか。このとき、「経営者」としてのスタートラインにようやく立ったのではないかと思う。

そして「経営理念」へ
それまで、大杉工務店には「経営理念」がなかった。気持ちはあっても文字にしたことはなかった。この火事の大事件が起こったあと、他にもいろいろな出来事があり、たどり着く。「みんなを笑顔に。みんなを輝かせたい」。信頼してくださっている取引先の社長さん、スタッフさん、共に仕事をしてくださっている職人さん、大杉工務店のスタッフ、そして家族。みんなみんな、笑顔に。大杉工務店とかかわっている人たちが、みんな輝くように。火事のときに見た、ラーメン屋“T”のスタッフの方の悲しい顔は今思い出しても心にのしかかり息苦しくなる。そして心配する家族の顔。もうあんな思いは、絶対に誰にもさせない。
もうひとつ、肝に銘じたこと。社是のひとつ「因、我にあり」。すべての原因は自分にある。火事が起こったとき、自分のなかで電気屋さんの責任だと思う気持ちがあった。なんでちゃんとやってくれなかったのか、という想い。だけど、それは違う。電気屋さんまかせにして、きちんと確認をしなかった自分の責任なのだ。実は、心の底からこう思えるようになったのは火事からずいぶん経ってからだった。そしていまは、なにかあれば常に思い出す。「因、我にあり」。
大杉工務店の事務所には、経営理念を額に入れて壁にかけてある。それを見るたびに、火事の大事件を思い出す。そして、「皆が輝く場所づくり」を心に刻むんでいる。火事の大事件は、たくさんの方々にご迷惑をおかけした。とんでもない出来事だった。そして、大杉工務店がスタートラインにたつ事件でもあった。これから、大杉工務店には新たなスタッフも増えていく。経営理念、社是の本当の意味をしっかり伝えて、「皆が輝く場所づくり」をしていこうと思っている。

経営理念が生まれるキッカケとなった大事件は、一本の電話からはじまる。